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仙台高等裁判所 昭和61年(行コ)11号 判決 1989年2月28日

青森市新町一丁目九番二六号

控訴人

有限会社武田開発商社

右代表取締役

武田政治

右訴訟代理人弁護士

尾崎堕

清宮國義

同市本町一丁目六番五号

被控訴人

青森税務署長

大場輝夫

右指定代理人

佐藤孝明

高橋静栄

高橋明

伊藤俊一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五七年六月三〇日付で控訴人の昭和五四年五月一日から昭和五五年四月三〇日まで及び同年五月一日から昭和五六年四月三〇日までの各事業年度の法人税についてした各更正処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付け加えるほか、原判決事実摘示(但し、原判決三枚目裏四行目の「七三二二万」を「七三二三万」と改め、九枚目裏三行目の「本件訴訟」を「別件訴訟事件」と改め、同面七行目の「滞納」の次に「税」を加える。)及び訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の補充主張)

1 国と青森県が本件利息・本件和解金を取立て控訴人の滞納税に充当し、その充当額の限度で控訴人において租税債務が消滅したからといつて純資産は増加したといえない。租税債務の納付に充当された弁済金に対してまで課税するのは、課税権の濫用である。

2 本件和解金は、本件返還金三億六〇六〇万円に対する受領の日から契約解除の日である昭和四九年八月二八日の前日までの法定利息金三一六四万三〇七四円について支払方法を定めたものにすぎず、本件和解を法律原因として生じた債権ではない。

3 本件和解の席上、国の指定代理人は控訴人側に対し、本件和解によつて納付を受ける金額以外に一切の請求をしない旨を約し、それを受けて控訴人は本件和解を合意するに至つた。和解条項第八項は、利息に対する課税を含め一切の請求をしないことを実現した、と解すべきである。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付け加えるほか、原判決理由と同じであるからこれを引用する。

原判決理由説示の事実によると、控訴人は、本件和解に基づいて中野に対する本件利息・本件和解金各債権を取得し、これを控訴人の租税債権者である国及び青森県において取立てしたことにより弁済を受けたというのであるから、その場合控訴人は右弁済金額について確定的に収益を生じており、他方右収益の実現に要した経費等の原価を計上すべき事実も認められないから、右債権弁済の全額をもつて益金に算入することは正当である。もつとも、控訴人は、税納付に充当されたことにより右弁済受領金の全額を出損したものであるが、所得額計算上、納付された法人税額は損金に算入されない定めであり、また昭和五〇年度法人事業税額であれば翌五一事業年度のおける所得額計算において損金算入するのが例であるから、右出損についてあらためて損金に算入し得る余地はなく、結局、租税債務消滅の変動分は全額が利益発生の評価を受けて益金に算入されるのである。したがつて、右益金から生じた所得金額に対する課税について、課税権濫用となる由はない。

成立に争いない甲第一、第二号証によると、本件和解金は本件和解を法律原因として発生した債権であることは明らかである。控訴人が反対証拠として援用する原審において提出した各書証、当審証人中野英喜、同鍛治利秀、同尾崎陞の各証言も右認定を左右しない。そして、右各証言に徴しても、別件訴訟事件において国の指定代理人が本件利息及び本件和解金につき課税しないことを約した事実を認めるに足りないし、また本件和解の和解条項第八項に関する控訴人の解釈は失当であり採用できない。

二  よつて、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 武田平次郎 裁判官 木原幹郎)

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